【重要判例】板付基地事件(最判昭40.3.9 民集19-2-233)

判例
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民法第1条第3項に規定される、「権利濫用禁止の原則」に関連する重要判例です。
(関連ページ:【民法の仕組み】民法とその基本原理)

早速下記にて見ていきましょう。

1. 板付基地事件の概要

板付基地事件は、板付基地(現福岡空港)の賃貸借を巡る一連の訴訟事件です。日本の敗戦後、板付基地一帯の土地は、その土地の所有者と日本政府とが賃貸借契約と締結し、アメリカ軍に空軍基地として使用させていました。登場人物を下記にて整理します。

  • Aさん:甲土地所有者(実際は土地所有者「達」ですが、簡略化しています)
  • 日本政府:Aさんと甲土地について賃貸借契約を結んでいる、賃借人
  • 甲土地:日本政府がAさんとの賃貸借契約に基づき借り上げている土地で、アメリカ軍が空軍基地として利用

米軍の占領状態は終了しましたが、依然として板付基地は米軍に使用されたままです。そこでAさんが日本政府にこんな要求をします。

[Aさん]

米軍の占領状態も終わった事だし、そろそろ貸してあげてる甲土地、返して欲しいんだけどいいよね?賃貸借契約の期限も満了してる事だし?てか米軍早く追い出してよ。

[日本政府]
え、あかん。

[Aさん]

えっ

[日本政府]
えっ

[Aさん]

いや、えっじゃ無くて、契約期間終わってるんだから土地明け渡してよ。甲土地の所有権は我々にあるんだし。

[日本政府]
いや、そこをなんとかさ、まだ米軍も使ってる事だし、再度賃貸借契約巻き直そうや、な?

[Aさん]

いやー、それは約束が違うでしょ!所有権はあくまで我々にあるんだから、この所有権に基づいて土地明渡し請求の訴訟を提起するから見とけよ!

こんな感じの事件です。これだけ見ると、明らかに日本政府に非がある様に見えますよね。

2. 板付基地事件の判決

この民事訴訟、最終的に以下の様に決着がつきました。

[Aさん]

ちょっと聞いてください!

[裁判所]
おー、なんやねん、なにがあってん。言うてみ。

[Aさん]

かくかくしかじかでね、日本政府の甲土地明け渡しを請求します!

[裁判所]
うーん、あかん!それはあかんぞ!明け渡し請求は却下や!

[Aさん]

えっ!?なんでですの!

[裁判所]
まず大前提としてな、甲土地の米軍への提供は、日米安保条約第3条に基づく真当な条約上の義務履行や。

その上で本件を考えるとや、「土地を明け渡して原状回復を求める様なお前の請求は、社会性と公共性に照らして考えると、日本政府が甲土地を明け渡して米軍が駐留できなくなる事で、国家・社会に大きな損害を与える」と考えられる!

従って本件の場合、所有権は否定されないものの、その権利行使は「権利の濫用」であり、認められない!

[Aさん]

まじで?

[裁判所]
まじで。

3. この判例のポイント

この判決は、土地の所有権に基づく権利行使を、それによって失われる公共の利益と衡量した上で、土地の賃貸人(Aさん)からの基地敷地(甲土地)返還請求を「権利の濫用」として処理した点です。

この判決によって、

私人の権利行使が権利濫用か否かを判断するにあたっては、「公共の利益」も考慮に入れた上で判断すべし

との判断基準が導き出されました。

最も、この判決は当時の社会情勢(終戦直後であり、日米の力関係の差は歴然)を鑑みると、アメリカ側に最大限配慮した結果となっている様に思われます。個人的にもあんまり納得できない判例の一つです。

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