民法第97条「意思表示の効力発生時期等」、特に「到達主義」に関する重要判例です。
(関連ページ:【民法総則】意思表示による権利変動)
1. 事件の概要
日本電電公社(現NTT)の電話加入者に対して、契約上の意思表示の到達が認められた事例です。
電話契約の加入者(厳密には他の人から電話加入権の譲渡を受けて、電話加入者になった者)が、加入者住所として特定の住所を書いて、電電公社から譲渡承認を受けました。
しかしながら、電電公社から譲渡承認を受けたその住所には、電話加入者は居住しておらず、代わりにある会社が営業所を設けており、そこに設置されている電話もその会社の営業所の人間が使用していたのです。
そんな中、電電公社から電話加入契約上の意思表示を記載した書面が、当該住所に交付されます。しかしそこに加入者本人は居住していませんから、その住所に営業所を構えている会社の社員によってその書面が受領されることとなります。
果たしてこの場合、電電公社の意思表示は、電話加入者に確かに到達したと見做されるか否か?というものです。
2. 本事件の判決要旨・理由(原文ママ)
原審の確定する事実によれば、上告人の代理人訴外Dは、被上告人公社の富山電話局に対して、本件電話加入権の譲渡承認請求及び本件市外通話用市内専用契約(以下「本件専用契約」という。)の申込をするにあたって、譲受者及び申込者たる上告人の住所をいずれも富山市a町b番地と表示してし、被上告人の譲渡承認及び申込に対する承諾をえ、本件加入電話加入契約(以下「本件電話加入契約」という。)及び本件専用契約に基づく各電話機は、いずれも上告人の住所として被上告人に対して表示された右の場所に設置され、右各電話機が設置された場所である富山市a町b番地には、E商事株式会社富山出張所なる商号を使用して商品取引の仲買業を営む訴外F、同Gらが営業所を設け、上告人の承諾のもとに、右営業所において右各電話機を使用して本件加入電話により通話をしていたものであるとし、かくて、原審は、このような場合においては、本件電話加入契約、本件専用契約に関して被上告人より加入電話加入者たる上告人に対して発せられる意思表示、その他の通知は、これが右の場所に居住する者によって受領された時にその到達があったものと解すべきものである旨判示しているのである。
(↑ここまで事件の概要の説明、原審(最高裁に上告前の下級裁判所で出された判決)の内容の説明をしています)
(↓ここからが本判決の理由です)
思うに、隔地者の意思表示またはこれに準ずべき通知は、相手方に到達することによってその効力を生ずべきものであるところ、右にいう到達とは、相手方によって直接受領され、または了知されることを要するものではなく、意思表示または通知を記載した書面が、それらの者のいわゆる支配権内におかれることをもって足りるものと解すべきである(最高裁昭和三三年(オ)第三一五号、同三六年四月二〇日第一小法廷判決、民集一五巻四号七七四頁参照)。そして、右原審の確定する事実関係のもとにおいては、上告人自らは右の場所に居住していなくても、右の場所に居住するものによって、本件電話加入契約、本件専用契約に関して被上告人より加入電話加入者たる上告人に対して発せられた意思表示、その他の通知を記載した書面が受領されたときは、右書面は上告人のいわゆる支配権内におかれたものと解して妨げなく、このような場合には、右意思表示その他の通知が、上告人に到達したものと解するを相当とする。従って、これと同旨の原審の判断は正当である。
しかるところ、原審の確定する事実によれば、被上告人から上告人に対する昭和三一年一〇月二八日付聴聞通知書が富山市a町b番地に充てて発送され、同年一一月二日右の場所において、その居住者によって受領され、また、被上告人から上告人に対する本件電話加入契約、本件専用契約を昭和三一年一二月八日かぎり解除する旨の意思表示を記載した同日付加入契約解除通知が前記の場所に宛てて発送され、同月二五日前記の場所において、その居住者によって受領されたというのであるから、右聴聞の通知及び契約解除の意思表示が、右各通知書がそれぞれ前記場所の居住者によって受領された時に上告人に到達したものと解すべきである。
3. この判例のポイント
この判例のポイントは、「最判昭36.4.20 民集15-4-774」の判決と同様に、
隔地者への意思表示は、例えその意思表示の相手方によって受領・了知されずとも、意思表示が相手方の支配圏内に入ったことを以って、意思表示の到達があったものと解するべき
という判断を導き出した点です。
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