【重要判例】最判昭36.4.20 民集15-4-774(意思表示の到達主義)

判例
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民法第97条「意思表示の効力発生時期等」、特に「到達主義」に関する重要判例です。
(関連ページ:【民法総則】意思表示による権利変動

1. 事件の概要

事件の概要はこうです。

原告側の会社Aの使用人Dが、被告側の会社Bに対して延滞賃料の支払催告書を持って行ったところ、Aの代表御取締役Eの娘Fが、たまたまBの事務室に居合わせ、Eの代わりに上記催告書を受け取りました。

[Dさん]

すみません、A会社の者なのですが、代表取締役のEさんいらっしゃいますでしょうか?

[Fさん]

すみません、Eは生憎外出しておりまして。。。。。私で良ければ承りますが?

[Dさん]

おー助かります!A会社から御社に宛てたの賃料の催告書なのですが、受領いただけますか?

[Fさん]

(催告書?なんやそれ。まぁ請求書みたいなもんやろ)わかりました!頂きますね!

[Dさん]

ありがとうございます!じゃあこの送達簿に受領印もお願いします!

[Fさん]

(オヤジの印鑑でハンコおしといたるか)わかりました!ハンコポチー

Fはそれを催告書ではなくただの請求書と思い込み、Eの引き出しにしまっておきました。

ーそれからしばらくしてー

[会社A]

おい、催告書出しても一向に賃料支払われないやんけ、どうなってんねんこれ。もうこれ以上待てんぞ、契約解除や解除。契約解除通知をBに出しとけや!

Aは催告書を出したにも関わらず、一向にBから賃料の払い込みがないため賃貸契約解除を決定。Bは契約解除通知がAから届いて初めて、上記催告書が会社に既に届いていたことを知りました。

Aは、催告書はFによってしっかりと受領されているのだから、その時点で意思表示が到達した、と主張し、Bは受領したのは権限も何も持たないFであり、そのFが受領したからといって意思表示が到達したとは言わない、と主張しています。さぁ、どっちの言い分が正しいでしょうか?というものです。

2. 本事件の判決要旨・理由(原文ママ)

所論の点に関し、争えない事実及びその挙示の証拠によって認定した事実に基づいて判示するところは次のとおりである。即ち、上告会社(注:Aのこと)の使用人であるDは、昭和二十六年九月二七日被上告人B自動車工業株式会社(以下B自動車と略称する)の事務室において同会社の代表取締役でだったEの娘Fに対し、甲第二号証の一(本件係争延滞賃料の支払催告書)を交付したが、右EはB自動車を退社する考えで自己の本業である映画撮影関係の仕事を捜していたため、同年八月頃からB自動車に出社せず、右九月二七日当時も同様であったこと、Fは、Dが前記甲第二号証の一の催告書を持参した際たまたまB自動車に遊びに来ており、Dから差出された右催告書を通常の請求書と思い、B自動車の使用人でもなく、またEから命じられてもいないのに、Dの持参した送達簿に欠勤中のEの机上に在った同人の印を勝手に押して受け取り、B自動車の社員に告げることもなく、右机の抽斗に入れておいたこと、次いで、同年一〇月五日上告会社から契約解除の書面が来り、初めて社員等において右催告書の来ていることを知了したものであること、これらの事実から見れば、右催告書はこれを受取る何らの権限のないFに交付されたものであって、いまだ右会社がこれを了知することのできる状態におかれたものと言うことはできず、契約解除の意思表示がなされるまでこれを了知しなかったことが明らかであるから、右催告は契約解除の前提としての効力がなかったものであるというのである。

(↑ここまで前節で説明した事件の経緯をつらつらと述べています)

(↓ここからが本判決の理由です)

しかしながら、思うに、隔地者間の意思表示に準ずべき右催告は民法九七条によりB自動車に到達することによってその効力を生ずべき筋合のものであり、ここに到達とは右会社の代表取締役であったEないしは同人から受領の権限を付与されていた者によって受領され或は了知されることを要するの謂ではなく、それらの者にとって了知可能の状態におかれたことを意味するものと解すべく、換言すれば意思表示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれることを以て足るものと解すべきところ、前示原判決の確定した事実によれば、B自動車の事務室においてその代表取締役であったEの娘であるFに手交され且つ同人においてDの持参した送達簿にEの机上に在った同人の印を押して受取り、これを右机の抽斗に入れておいたというのであるから、この事態の推移にかんがみれば、Fはたまたま右事務室に居合わせた者で、右催告書を受領する権限もなく、その内容も知らず且つB自動車の社員らに何ら告げることがなかったとしても、右催告書はEの勢力範囲に入ったもの、すなわち同人の了知可能の状態におかれたものと認めていささかも妨げなく、従ってこのような場合こそは民法九七条にいう到達があったものと解するを相当とする。

3. この判例のポイント

この判決のポイントは、表意者の意思表示について、

例えその意思表示が相手方本人によって了知されずとも、意思表示が相手方の支配圏(相手方の了知可能な範囲)に入ったことを以って、意思表示の到達があったものと解するべし

という法理を導き出した点です。この判決以降、意思表示の到達に関する解釈に関してはこの判例の法理が継承されていくことになります。

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