【民法総則】物

民法
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日常生活の中で「物」という言葉を頻繁に使用しますが、その定義や意義について意識をしたことは無いのではないでしょうか?

我々が普段何気なく使用している「物」も民法上ではしっかりとその定義や種類が規定されています。

1. 物の意義

民法上、「物」とは「有体物」のことを指します(民法第85条)。

民法第85条(定義)
この法律において「物」とは、有体物をいう。

至ってシンプルな条文ですね。

この「有体物」とは、物理的支配可能性を基礎にした概念です。スマホや土地、建物等、物理的に支配が可能ですよね。

一方で電気や仮想通貨など、物理的に支配が不可能な「物」も存在するのも確かです。これらの物に関しては、「物=有体物」という基本的な概念は維持した上で、「物」に関する法律的な規律をどこまで類推適用し得るか、という事が重要となってきます(この問題に関しては語り出すと長いので、ここでは割愛します。)。

2. 物の種類

民法上、物(=有体物)は2つの種類に分けられます。

民法第86条(不動産及び動産)
  1. 土地及びその定着物は、不動産とする。
  2. 不動産以外の物は、すべて動産とする。

これもとってもシンプルな条文ですね。民法上の「物」は二種類しかありません。即ち、「不動産」か「動産」です。

以下にて具体的にみていきましょう。

2-1. 不動産

誰もが日常的に見聞きするであろう言葉、みんな大好き不動産です。我々が一般的に「不動産」と聞くと、一軒家やマンションなどの「建物」をイメージしますが、民法上の「不動産」の定義はもう少し広範です。

民法第86条では、「不動産=土地及びその定着物」と規定されています。ここで言う「土地」と「定着物」について、もう少し細かくみてみましょう。

2-1-1. 土地

民法上の「土地」とは、不動産登記制度上で、「一筆」という人為的区分により区分された区画を指します。

小難しい事を書いていますが、いわゆる我々が普通にイメージする「土地」と相違はありません。

2-1-2. 土地の定着物

土地の定義はわかりました。では「土地の定着物」とは具体的に何を指すのでしょうか?

土地の定着物にはいくつかの種類があります。

例① 土地と合体した物

例えば、地中や地上に剥き出しになった岩など。これらは土地所有権に吸収され、「土地を構成する一部分」となります。

例② 建物

建物は土地の定着物ですが、土地とは別個独立した物として捉えられます。

つまり、ある土地の上にある建物がある時、その土地と建物は各々別個独立した不動産として見做されます。

例③ 両者の中間にある物

例えば土地に生えている「立木」などがそうです。

立木とは「一筆の土地全体又は一部に生立している樹木」のことを指します。

実はこの立木に関しては「立木法」なる法律が存在し、この法律に基づき所有権登記をすることで、立木の所有権を主張することができます(登記の他にも「明認方法」という方法で所有権の主張が可能)

上記の方法(登記若しくは明認方法)で登記された立木を除く立木は、土地に吸収され土地を構成する一部分として見做されます。

2-2. 動産

民法上の「物」の種別は至ってシンプルです。「不動産か、不動産でないか」で全て完結します。

即ち「土地及びその定着物」ではない「物」は全て「動産」と見做されます。

例えば自動車やスマホ、テーブル、TV、自転車、PC等、挙げればキリがありませんが、全て動産です。

3. 物の特徴

ここまで物の意義と種類をみてきました。では法律上「物」と見做されるものには、どのような特徴があるのでしょうか?

3-1. 独立性と単一性(一物一権主義)

権利の対象としての「物」であるためには、「独立性を備えた単一の物」でなければなりません。

これを、「一物一権主義」といいます。具体的にどういうことかというと、

    1. 物権(物に関する権利)の対象は、1個の物として独立していなければならない(1個の物の一部の上に物権は成立し得ない)
    2. 物権の対象は、1個の物としての単一の物でなければならない(複数の物の上に1個の物権は成立し得ない)

民法上、「物」と見做されるには、原則としてこれらの特性を兼ね備える必要があります。

しかしこれらの原則を厳密に貫くとすると、色々な不都合が生じる場合があります。そこで下記の様な場合には、一物一権主義の解釈を少し変え、不都合が生じぬ様に合理的に処理することとしています。

3-1-1. 独立性の修正 – 土地の場合

例えば土地の場合、一つの土地の中に複数の物権が混在するのは往々にしてあり得ることです(土地の一区画に対する抵当権や地役権等)。

この様な状態は、一物一権主義の「物は一個の物として独立していなければならない(1個の物の一部の上に物権は成立し得ない)」の原則に反することとなります。

この場合、

土地の区分け(一筆)は、あくまで法技術的・人為的・便宜的区分に過ぎず、従って土地の一部への権利設定は可能である(この場合は「分筆」がされることになります)

という解釈に帰着します。

3-1-2. 単一性の修正 – 集合物

原則に思いっきり反しますが、物に対して権利を設定する時、それが単一の物ではない場合があります。

例えば、「債権保全の目的で、在庫商品をまとめて担保に取る」様な場合(集合動産譲渡担保と言います)、この際の譲渡担保は単一の物を目的物としているのではなく、

「単一の物(在庫商品)が集合した「集合体」の価値に着目して、権利の対象としている」

と言えるでしょう。

この様な場合、個々の物としての個性を失い、集合体となったものにつき、単一物と区別して「集合物」といわれることがあります。

この様な「集合物」の上に物権が認められるためには、

  1. 集合物が個々の構成物と異なる独自の利益を有している
  2. 集合物として特定している
  3. 集合物として公示の原則に適している

ことが必要となります。

★公示の原則とは、「当事者間での物権の変動を、取引に関係のない第三者にも認識できる様な方法で示すこと」で、具体的には「占有改定」や「動産譲渡登記」があります(「物権」の章で詳しく解説します)。

3-2. 支配可能性

物権の対象としての「物」であるためには、その物が支配可能なものでなければなりません。

「支配可能」とは、人が「排他的に支配管理(使用・収益・処分)」できることを指します。これができない(つまり支配が可能でない)ものは「物」と見做されません。

3-3. 非人格性

非人格性、即ち生きている人間やその人間の一部を「物」として所有権を観念することはできません(これが許されると人身売買も許されることになってしまいますからね・・・)。

但し、人体の一部が人体から切り離された時、その分離した人体の一部は「物」として扱うことができるとされています。例えば毛髪は、本人から切り取ったものをウィッグとして再利用し、販売できますよね。しかし、血液や臓器などに関しては、法律により「物」として取引をすることは禁じられています。

4. 主物と従物

物を考えるとき、「主物と従物」という概念が出てきます。具体的にみてみましょう。

4-1. 主物と従物の意義

複数の物の間に、「一方が他方の効用を補う」という関係性があるとき、補われる物を「主物」、補う物を「従物」と呼びます。

この主物と従物は、民法では下記の様に規定されています。

民法第87条(主物及び従物)
  1. 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
  2. 従物は主物の処分に従う。

主物と従物の具体的な例として、例えば「建物とその部屋に取り付けられたエアコン」や、「家屋に付属する納屋」、「工場とその中に据付けられた機械」などがあります。

また、従物は主物から独立した物であることを要します。例えば土地の上にある石や砂利は「土地の構成物」と見做され、この独立性の要件を欠き、従物とは見做されません。

4-2. 主物処分時の従物の扱い

民法第87条では、「従物は主物の処分に従う」と規定されています。

民法では、従物は主物の常用に供する物、即ち「主物の経済的効用は従物によってより高められる」としていることから、従物は主物の法的運命に極力服させることが望ましいとしています。

そこでこの87条第2項です。

ここでの「処分」とは「法律的な処分」、即ち「権利義務を発生させる全ての法律行為」を指します。

例えば家を売却した時、その屋根についていたソーラーパネル(従物)は、家(主物)と共に売買の対象となり所有権も買主に移ります。

その他にも、ある土地に抵当権が設定された場合。その土地(主物)に付属する灯籠や取り外し可能な庭石等(従物)は、主物の法的運命に服しますから、これらの物にも土地に対する抵当権の効力が及ぶことになります。

最も、この87条第2項はいわゆる「任意規定」と解されているので、当事者間で別段の意思表示があれば、そちらが優先されます。

例えば上の例で、家を売却するときの売買契約上に「但し、屋根上のソーラーパネルについては、売主が引き続き所有権を有する」等の文言を加えれば、ソーラーパネルは家の従物であるものの、主物の処分(売却)に服すことなく、引き続き売主が所有権を有することとなります。

5. 元物と果実

「物」の態様の一つに「果実」というものがあります。読み方は「くだもの」ではなく「かじつ」と読みます。

法律上の「果実」には二種類あり、各々「天然果実」と「法定果実」と呼ばれます。下記にて詳しくみていきましょう。

5-1. 天然果実とは

天然果実とは何を指すのでしょうか?民法では第88条で天然果実と法定果実につき規定しています。

民法第88条(天然果実及び法定果実)
  1. 物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。
  2. 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。

民法第88条では、「物の用法に従い収取する産出物」を「天然果実」と規定しています。

物の用法に従い収取する産出物とは、簡単に言えば「ある物から自然に産出される物」です。

例えば木になるリンゴ、牛から採れる牛乳、成犬から生まれる子犬、これらは全て「天然果実」に分類されます。人工ではなく、自然に産まれる物が天然果実、ということですね!

5-2. 法定果実とは

一方、法定果実は民法第88条で下記の通り規定されています。

民法第88条(天然果実及び法定果実)
  1. 物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。
  2. 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。

天然果実とは反対に、法定果実は「自然には産出されない、人間の経済活動や法律行為の結果産まれる金銭やその他の物」と言えます。

例えば金銭を貸した際に発生する利息や、不動産を賃貸した結果生じる賃料等が法定果実の典型例です。

「自然発生的に、物理的に産出される」というよりは「概念的に発生する」ものが法定果実となります。

5-3. 果実の帰属

前節で「天然果実」と「法定果実」につきみてきました。では、これら民法上の「果実」は誰にどの様に帰属するのでしょうか?民法第89条では下記の通り規定しています。

民法第89条(果実の帰属)
  1. 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。
  2. 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。

当たり前のことといえば当たり前ですが、木になったリンゴ、牛から採れる牛乳等の天然果実は、その果実が産出された時(元物、つまり産出元から分離した時)にその果実を収取する権利を持つ人に帰属します。

木になるリンゴの例で言えば「木の所有者」、牛の牛乳の例で言えば「牛の所有者」が収取者、つまり果実の帰属先となります。

また法定果実に関しては、その果実をもらえる権利の存続期間に応じて、日割りにて計算することが定められています。

6. まとめ

民法上の「物」に関し、下記まとめです。

  • 民法上の「物」とは「有体物」のことを指す。
  • 「有体物」とは物理的支配可能性を基礎とした概念である。
  • 電気や仮想通貨等、「物理的支配が不可能なもの」に関しては、「物」に関する規律をどこまで類推適用できるかが重要となってくる。
  • 民法上の「物」は「不動産」と「動産」に分けられ
  • 不動産は土地及びその定着物を指し、動産は不動産以外の物全てを指す。
  • 土地の上の建物は土地とは別の不動産とみなされる。
  • 物」の特徴としては「一物一権主義」があるが、土地の一部処分や集合物譲渡担保等、一物一権主義の修正が必要となる場面もある。
  • 物の中には「一方が他方の効用を補う」関係性が認められる場合があり、この場合の「補われる側」を主物といい、「補う側」を従物という。
  • 物のうち、「物の用法に従い収取するもの」を「天然果実」と呼び、「物の使用の対価として受け取るもの」を「法定果実」と呼ぶ。

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