【民法総則】権利能力の始期と終期

民法
この記事は約4分で読めます。

1. 権利能力の始まり

人(自然人)の権利能力はいつから始まるのでしょうか?民法では自然人の権利能力の始期を下記の様に規定しています。

民法第3条(権利能力)
  1. 私権の享有は、出生に始まる。
  2. 外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。

民法第3条では、私権の享有(権利が与えられる事)は、出生に始まると規定しています。つまり人は赤ん坊としてこの世に生を受けたその瞬間から、権利能力を有する(権利義務の帰属点となる)と言う事ですね。

ちなみに外国人の私権に関して、民法第3条では、「法令又は条約により制限される場合がある」と規定しています。日本国憲法では、国際協調主義」を原則としており、日本に住む外国人にも最大限権利が保障されていますが、参政権や国家賠償請求権、特定の資産の所有権が認められない(例:旅客機や船舶等)等、一定の制約を受ける場合もあります。

1-1. 胎児の権利能力

民法第3条では「私権の享有は出生に始まる」としていますから、これに基づけば原則としてまだ生まれていない胎児に権利能力は無い、という事になります。

しかし、これを厳密に貫くと、色々な不都合が生じる場合があります。例えば、

  1. 胎児が相続をするとき(民法第886条)
  2. 胎児の損害賠償が問題となるとき(民法第721条)
  3. 胎児への遺贈がされたとき(民法第965条)

これらの場合において、「胎児に権利能力なし」としてしまうと、胎児に不利益が生じてしまう事になります。

そこで民法では上記の三項目に関して、「胎児を生まれたものとみなす」事によって、法律上の不都合を回避しています。これを「出生擬制と呼びます。

★擬制=相異なる事実を法的には同一のものとみなし、同一の法律効果を与えること。

出生擬制を規定している民法条文を下記にて確認しましょう。

民法第721条(侵害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
民法第886条(相続に関する胎児の権利能力)
  1. 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
  2. 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
民法第965条(相続人に関する規定の準用)
第886条(相続に関する胎児の権利能力)及び第891条(相続人の欠格事由)の規定は、受遺人について準用する。

民法では上記3条項により、法律の定める一定の場合において胎児の出生擬制をはかり、胎児が不利益を被る事を回避しています。

2. 権利能力の終わり

これまで人の権利能力の「始まり」について見てきました。では権利能力はいつ「終わる」のでしょうか?

実は民法には、この「自然人の権利能力の終期」を規定した条文が存在しないんです。

でももちろん、死んでしまった人間に対していつまでも権利を与えるわけにはいきません。民法では各条文で間接的に「人が権利能力を喪失する2パターン」を定めています。

2-1. 死亡による権利能力の喪失

1パターン目は死亡です。人は死亡によって、その権利能力を喪失します。(当たり前っちゃあ当たり前なので、細かい説明は端折ります)

2-2. 失踪宣告による権利能力の喪失

「失踪宣告」、あんまり聞き馴染みがない言葉ですよね。

従来の住所や居所を去った人が生死不明となっても、その時点ではその人の権利能力は失われていません。なぜなら、民法上では私権の喪失は「死亡」に限られているからです。

しかしそうは言っても、その人の生死不明状態が長期に亘って続くとき、その人の私権を維持して様々な法律関係(例:結婚、生命保険契約、賃貸借契約等々)を維持する事が、その法律関係の利害関係者にとって不都合となる場合があります。

そこで民法では、不在者が一定期間生死不明となっている場合においては、その人を「死亡したもの」と見做して(=死亡擬制)、法律上の不都合を回避しています。失踪宣告に関しては、「【民法総則】失踪宣告による死亡擬制」で詳しく解説しています。

3. まとめ

今回は自然人の権利能力の始期と終期に関して見てきました。おさらいすると、

【権利能力の始期】

  • 私権の享有は出生に始まる(胎児には権利能力なし)
  • 但し、一定の場合においては胎児にも権利能力を与え(=出生擬制)法律上の不都合を回避している

【権利能力の終期】

  • 私権の終期は「死亡」又は「失踪宣告による死亡擬制」による

という事ですね!

コメント