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1. 失踪宣告による死亡擬制
1-1. 失踪宣告とは
「【民法総則】権利能力の始期と終期」で、自然人の権利能力の終期は「死亡」もしくは「失踪宣告による死亡擬制」の何れかによる、と説明しました。
失踪宣告による死亡擬制に関して、民法第30条では下記の様に規定しています。
民法第30条(失踪の宣告) |
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戦争やら船舶の沈没やら、物々しい文言が出てきますが、何しろ民法が施行されたのが明治時代ですからね・・・・。当時は戦争の危険も船舶に関連する危険も、現代よりもっと身近だったんでしょう。
民法第30条では、下記2パターンの失踪宣告が規定されています。
- 一般失踪(第1項)=生死が7年間明らかでないとき
- 特別失踪(第2項)=生死が危難が去った後1年間明らかでないとき
一般失踪と特別失踪の違いは、失踪宣告を家庭裁判所が宣告できる様になるための、「生死不明の期間」にあります。即ち、一般失踪においては「生死不明の期間が7年間継続」、特別失踪においては「危難が去った後、生死不明の期間が1年間継続」して初めて、家庭裁判所は「失踪宣告」を出すことができるのです。
そして、家庭裁判所に失踪宣言の請求ができるのは、「利害関係人」に限られます。
ここで言う「利害関係人」とは、「失踪宣告により直接に権利を取得し、又は義務を免れる者」を指しており、具体的には推定相続人、生命保険受取人、生死不明の人の終身年金等の支払義務者等が含まれます(カネですね、カネ)。
1-2. 失踪宣告の効果
さて、ある人の生死不明期間が規定を超え、利害関係者による失踪宣告の請求が行われました。その後の処理について、民法第31条ではこう規定しています。
民法第31条(失踪の宣告の効力) |
前項一項の規定により失踪の宣告を受けた者は、同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。 |
つまり失踪宣告が出されると、その生死が不明な人は死亡したもの(=死亡擬制)とみなされます。ここで注意すべきは、「死亡擬制が成立するタイミング」です。
民法第31条によれば、
- 一般失踪=生死不明の期間(7年間)が満了した時点で死亡擬制
- 特別失踪=危難が去った時点で死亡擬制
と規定されています。特別失踪の場合、失踪宣告が出されるのは「危難が去ってから1年後」ですから、死亡擬制は「危難が去った時点」に遡って成立する事になります。
ちなみに、離婚・離縁の場合は「3年以上の生死不明を理由に、失踪宣告を待つ事なく、裁判上の離婚・離縁によることができる」とされています。
婚姻も立派な私人間の法律関係ですが、こちらに関しては失踪宣告を待つことなく、一定の期間が過ぎればその法律関係を解消できる、と定めています。
民法第770条(裁判上の離婚) |
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1-3. 死亡擬制の及ぶ範囲
これまで失踪宣告とそれに伴う死亡擬制について見てきました。ではこの失踪宣告による死亡擬制の効果はどの範囲まで及ぶのでしょうか?
そもそも死亡擬制の意義とは、「生死不明者の住所において形成された、当該生死不明者をめぐる私法上の法律関係に決着をつける」ことです。
従って死亡擬制の効果が及ぶ範囲は、「生死不明者の従前の住所における、生死不明者の私法上の法律関係に限られる」事になります。
これはどう言うことか?
例えば、生死不明者が実は外国で生きていて、日本で失踪宣告が出された時期以降に、外国で住居を賃貸借したり物品を購入したり、婚姻をしたとしても、これらの法律行為に失踪宣告は影響しない、という事になります。
2. 失踪宣告の取消し
2-1. 失踪宣告取消しの必要性
失踪宣告が出された後、「実は生死不明者が生きてました!」みたいなことがあるかもしれません。この様な場合には既に家庭裁判所から出されている失踪宣告を取消す必要があります。
しかし、生死不明者の生存が明らかになったからといって、すぐに失踪宣告が取り消されるわけではありません。
この点、民法第32条では下記の様に規定しています。
民法第32条(失踪の宣告の取消) |
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つまり、失踪の宣告は「本人又は利害関係者による申立て」を以て、家庭裁判所が失踪の宣告を取消す審判をして初めてその効力を失う、という事になります。
2-2. 失踪宣告取消しの効果
利害関係人の申立てにより、家庭裁判所が失踪の宣告を取り消す審判を下しました。この失踪宣告の取消しが行われた後、この「元」失踪者を取り巻く法律関係はどの様に影響を受けるのでしょうか。
失踪の宣告を受けた失踪者が生存していたとしましょう。この場合、この「元」失踪者は失踪宣告以後も、「従前の住所を中心とする法律関係において、生存し続けていた」事になりますよね。
でもこれでは、当該失踪人が「死亡している」との前提に立って、新たな法律関係に入った人の利益が損なわれる可能性があります。
こうした不都合に対処するため、民法第32条では次の2つの場合において、下記の様な措置を講じています。
2-2-1. 民法第32条第1項後段の例
Xさんに対して失踪宣告がなされ、死亡擬制が成立しました。このXさんが所有していた甲土地を、息子であるAさんが相続します。
そしてAさんは、この相続した甲土地を第三者のBさんに売却しました。この時点では、Xさんについての失踪宣告は取り消されておらず、AさんBさん共に「Xさんは死亡している」という前提で、「甲土地の売買契約」という新たな法律関係に入りました。
ところがこの売買成立から程なくして、Xさんの生存が判明し、家庭裁判所が失踪宣告の取消しを審判しました。
死亡擬制が解かれたXさんは、自分の所有する甲土地が息子のAさんからBさんに売却されている事に気づきます。「失踪宣告が取り消され、自分は生存しているのだから」と、XさんはBさんに土地の返還を請求しました。この時、BさんはXさんに甲土地を返還する義務を負うでしょうか?
このケースでは、BさんはXさんに甲土地を返還する義務を負いません(BさんはXさんの甲土地返還請求に対抗できる)。
民法第32条第1項後段では、「(失踪宣告の)取消しは、失踪の宣告後その取消前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」
即ち、
「失踪宣告の取消し前に、その失踪宣告の対象となっている人が生存している事実を知らずに(生存の事実につき善意で)した法律行為の効力は、失踪宣告の取消しによって影響されない」という事です。
上記の例では、AさんBさん共に、甲土地の売買契約締結時点でXさんの生存を知りませんから、AさんとBさんの間の売買契約は有効であり、BさんはXさんの甲土地の返還請求に対抗できる、という事になります。
2-2-2. 民法第32条第2項の例
まず民法第32条第2項が言わんとしている事ですが、
「失踪宣告によってなんらかの利益や権利を得る人(受益者)は、失踪宣告が取消されたら、その利益や権利を失いますよ。もし既になんらかの利益を受け取っちゃっている人は、受け取った物の内、宣告が取り消された時点で残っている分(現存利益)は返還してね。」
と、いう事です。具体例を見てみましょう。
【例1】
失踪宣告を受けた失踪者の妻子が、当該失踪者所有の財産を相続しました。妻子が当該財産相続をした後、当該失踪者の生存が確認され、失踪宣告が取消されました。この場合、妻子が相続した失踪者の財産の扱いはどうなるのでしょうか??
違う例も見てみましょう。
【例2】
失踪宣告を受け、失踪者が加入していた生命保険契約に基づき、保険金受取人に指定されていた人が保険会社から保険金を受領しました。その後、当該失踪者の生存が確認され、失踪宣告が取消されました。この場合、保険金受取人が保険会社から受領した保険金の扱いはどうなるのでしょうか??
民法第32条第2項では、
「失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。」
と規定されていますので、受益者(上の例では妻子と保険金受取人)は、失踪の宣告により得た財産の権利を失います。
それに加え、「受領している財産について、現に利益を受けている限度(=現存利益)においてのみ、その財産を返還する義務」を負います。
上の例における現存利益は、
例1:妻子が相続した失踪者の財産の内、残存している部分(既に使っちゃった分は除く)
例2:保険金受取人が受領した保険金の内、残存している部分(既に使っちゃった分は除く)
という事になります。即ち、例1では失踪者に、例2では生命保険会社に現存利益を返還しなきゃいけない、という事ですね。
因みにこの「現存利益」について、
「これだけの利得を既に使ってしまって、残りはこれだけしかないんです」
という事を立証しなければいけませんが、この立証責任は「財産の返還請求をする側」ではなく、「財産の返還請求を受けた側(上記の例では妻子と保険金受取人)」が負います。これを、「利得消滅の抗弁」と言います。
3. まとめ
今回は失踪宣告による死亡擬制と、それによる効果に関して見てきました。
おさらいすると、
- 失踪宣告には2パターンあり、各々「一般失踪」と「特別失踪」である。
- 失踪の宣告は、「一般失踪においては生死不明が7年間続いた段階」、「特別失踪においては危難が去った時から生死不明の状態が1年間続いた段階」で、各々失踪の宣告を請求することができる。
- 失踪宣告の効果が及ぶ範囲は、「生死不明者の従前の住所における、生死不明者の私法上の法律関係に限られる」。
- 失踪宣告の取消しは、家庭裁判所が「宣告取消しの審判」をする事で有効となる。
- 失踪宣告の取り消しは、失踪の宣告後その取消前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
- 失踪宣告によって財産を得た者は、その財産の権利を失い、現存利益を返還しなければいけない。
という事になります!
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