「【民法総則】意思能力と行為能力」で、民法における4つの「制限行為能力者」の形態がある、という事を説明しました。
この投稿では、「被保佐人」について詳しくみていきます。
Contents
1. 被保佐人の要件
民法では、被保佐人を下記の様に規定しています。
民法第11条(保佐開始の審判) |
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、補佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りではない。 |
民法では、被保佐人を「事理を弁識する能力(事理弁識能力)が著しく不十分である者」と規定しています。同じく事理弁識能力を欠く者として、成年被後見人をみましたが、成年被後見人の定義は「事理弁識能力を欠く常況にある者」でした。
民法上、被保佐人は「成年被後見人程事理弁識能力を著しく欠く常況ではないものの、単独で法律行為を行える程の事理弁識能力は有していない」と整理されます。
2. 被保佐人の保護者
被保佐人の保護者は「保佐人」です。保佐人は以下の条文で規定されています。
民法第12条(被保佐人及び保佐人) |
補佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。 |
民法第876条の2(保佐人及び臨時保佐人の選任等) |
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民法第11条に基づき、家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた者には、保護者として「保佐人」が付されます。
ここで大切なことは、「保佐人=被保佐人の法定代理人ではない」という事です。これは次節で詳しくみていきます。
3. 保護者の代理権
被保佐人の保護者である保佐人は、原則被保佐人の法律行為の代理権を有しません。
但し、一定の者による請求によって、家庭裁判所は保佐人に対して、被保佐人の一定の法律行為に関する代理権付与の審判を下すことができます。
民法第876条の4(保佐人に代理権を付与する旨の審判) |
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保佐人に対する代理権付与において重要な点は、
「本人以外の請求によって代理権付与の審判をする際は、必ず本人の同意が必要となる」
点です。
事理弁識能力の欠如の度合いが最も高いとされる「成年被後見人」とは異なり、被保佐人の自己決定権を尊重する目的で、この様な規定が設けられています。
なお、876条第4項記載の「代理権付与の対象となる特定の法律行為」とは、下記の行為(民法第13条第1項の内容)を指します。
- 元本を受領し、又は利用すること。(貸した家や金銭等を返済してもらったり、それらを他人に貸したり預けたりすること。
- 借財又は保証をすること。(金銭を借りたり、保証人になること)
- 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。(家や高価な財産を売ったり、貸したり、担保を付けたりすること)
- 訴訟行為をすること。(訴訟を起こしたり、訴訟を取り下げたりすること)
- 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。(贈与、和解をしたり、仲裁契約をすること)
- 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。(相続を承認、放棄したり、遺産分割をすること)
- 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。(贈与や遺贈を断ったり、負担付の贈与や遺贈を受けたりすること)
- 新築、改築、増築又は大修繕をすること。(新築、改築、増築、大修繕の契約をすること)
- 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。(宅地は5年、建物は3年、動産は半年を超える期間に亘って、貸す契約をすること)
保佐人に対する代理権付与の審判の申立ては、保佐開始の申立てと同時にすることも、保佐開始の審判が下された後に事後的に行うことも可能です。
ここでもうお分かりの様に、保佐人が被保佐人の法律行為に関する代理権を持つには「本人の同意の上、家庭裁判所の許可が必要」という事になります。
つまり、「保佐人に選任されたからと言って、当然に被保佐人の法定代理人になるわけではない」という事です。
この点が、未成年者・成年被後見人の保護者との大きな違いです。
4. 保護者の同意権
被保佐人の保護者である保佐人には、被保佐人が行う法律行為に関しての「同意権」が与えられています。
ただし、未成年者の場合と異なり、制限行為能力者の広範多岐にわたる法律行為に対して同意権が与えられているわけではなく、保佐人の同意権は、民法第13条に定められる特定の法律行為に限られます。
民法第13条(保佐人の同意を要する行為等) |
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保佐人の同意権が及ぶ範囲は、民法第13条の第1項に規定される法律行為、又は特定の者による請求に基づき、家庭裁判所が保佐人の同意を得なければならない旨の審判を下した法律行為に限られます。
また、これら保佐人の同意が必要となる法律行為について、「保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにも関わらず、当該法律行為の同意をしない場合」は、家庭裁判所は被保佐人の請求により保佐人の同意に代わる許可を与えることができます。
民法第13条に基づく保佐人の同意が必要となる法律行為に関して、保佐人の同意(又は家庭裁判所による許可)を得ずに被保佐人が単独でした行為に関しては、取り消すことができます。
5. 被保佐人が単独で行えない法律行為を単独でした場合
被保佐人が単独で法律行為を行った場合、その後の当該法律行為の対応として「取消」と「追認」があり、以下の4パターンに細分化されます。
5-1. 本人による取消し
被保佐人が単独で行えない法律行為を単独でした場合、その法律行為は本人が取り消すことができます。以下根拠条文です。
民法第13条(保佐人の同意を要する行為等) |
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民法第120条(取消権者) |
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民法第13条第4項にて「保佐人の同意を得なければならない行為なのにも関わらず、被保佐人がその同意を得ることなく単独で行った行為は、取消可能である」旨を規定しており、民法第120条では、「当該法律行為の取消権者」を規定しています。
民法第120条では、「制限行為能力者(即ちここでは被保佐人)が行為を取り消すことができる」と規定していますから、この条文に基づき、被保佐人が法律行為を取り消すことができる、という事になります。
ただし、民法第13条第1項に規定のただし書にある通り、「第9条ただし書」即ち「日用品の購入やその他日常生活に関する行為」については、被保佐人が単独で行った行為であっても取り消すことはできません。
5-2. 保護者による取消し
被保佐人が単独で行えない法律行為を単独でした場合、その法律行為はその本人のみならず、その保護者(保佐人)も取り消すことができます。
民法第120条(取消権者) |
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保佐人の取消権はこの箇所に規定されています!
前章にて「保佐人は必ずしも保佐人の法定代理人になるわけではない」旨を説明しました(保佐人が持ち得る代理権は、民法第13条に規定される特定の法律行為に限り、かつ被保佐人の同意を得た上で家庭裁判所に「代理権付与の審判の請求」をしなければなりません)。
従って、代理権が付与されていない保佐人に関しては、単に「民法第13条に規定される特定の法律行為に対する同意権」を持つに留まりますので、民法第120条第1項の「同意をすることが〜」以降が該当します。
5-3. 保護者による追認
3パターン目は「追認」です。
保佐人には、被保佐人が行った法律行為に対する追認権が認められています。根拠条文は以下の通りです。
民法第122条(取り消すことができる行為の追認) |
取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。 |
民法第120条は前項で確認しました。第120条に規定される者とは、
- 制限行為能力者
- 制限行為能力者の代理人
- 制限行為能力者の承継人
- 同意をすることができる者
でした!
即ち、被保佐人の特定の法律行為に関して同意をすることができる者(=即ち保佐人)、若しくは代理権を付与された保佐人が、追認権を行使できます。
5-4. 本人による追認
被保佐人による取消可能な法律行為の取り消しは、被保佐人本人による追認も可能です。
民法第122条(取り消すことができる行為の追認) |
取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。 |
民法第124条(追認の要件) |
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繰り返しになりますが、まず民法第122条です。122条(厳密には参照先の120条)では「制限行為能力者本人」が追認権を有すると規定されてましたよね?
それはそうなんですが、その追認権を行使する際の「要件」を定めた条文が民法第124条です。
つまり、民法第122条で追認権を持っていても、124条の要件を満たさなければ、追認権は行使できないということです。
では被保佐人本人が追認権を行使するための要件は何でしょうか?この要件を規定しているのが、同条の第1項です。
第1項では、「追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後」でないと、追認はできない、と定めています。
即ち、「制限行為能力者である被保佐人が行為能力を回復し、かつ、その本人が当該法律行為に関して取消権がある事を認知した後」でないと、追認はできない、と規定しています。
つまり、本人が取り消すことができる法律行為を追認するには、その本人が行為能力を回復して、被保佐人でなくなり、かつ取消権を有することを認知する事が必要となります(行為能力の回復に関しては、本記事の最後の項を参考してください)。
なお、被保佐人は民法第124条第2項第2号に基づき、保佐人の同意を得た上であれば、行為能力の回復を待たずして本人が追認をすることができます。
6. 相手方の催告権
被保佐人の相手方の催告権につき、まずは条文からみていきます。
民法第20条(制限行為能力者の相手方の催告権) |
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被保佐人に対する催告権は下記の3パターンです。
催告の相手方 | 催告の時期 | 確答の期限 | 期限内に確答がない 場合の効果 |
本人 | 行為能力者となった後 | 最低1ヶ月以上 | 当該法律行為を 追認したとみなす |
保佐人 | 制限行為能力者である間 | 最低1ヶ月以上 | 当該法律行為を 追認したとみなす |
本人 | 制限行為能力者である間 | 最低1ヶ月以上 | 保佐人の追認を得るべき催告をすることができる。期限内に確答がない場合は、当該法律行為を取り消したとみなす |
7. 行為能力の回復
最後に被保佐人が行為能力を回復する要件をみていきましょう。
民法第14条(保佐開始の審判等の取消し) |
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民法第14条では、「第十一条に規定する原因」、即ち「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」状況が消滅したときは、一定の者からの請求によって保佐開始の審判を取り消さなければならないとしています。
この「保佐開始の審判」が取り消された時、被保佐人は行為能力を回復し制限行為能力者ではなくなります。
8. まとめ
被保佐人に関する各項目につき、未成年者と成年被後見人と比較してまとめてみます。
未成年者 | 成年被後見人 | 被保佐人 | |
制限行為能力者となる要件 | 成年に達していないこと | 家庭裁判所による後見開始の審判(7条) | 家庭裁判所による保佐開始の審判(11条) |
保護者 | 親権者(818条) 親権を行う者がいない時は未成年後見人(838条) |
成年後見人(8条) | 保佐人(12条) |
保護者の代理権 | あり(824条/859条) ★ただし、子の行為を目的とする債務を生ずべき時は、 本人の同意が必要 |
あり(859条/859条の3) ★ただし、成年被後見人の行為を目的とする債務を生ずべき場合は本人の同意が必要 ★ただし、成年被後見人の住居用不動産に関する処分については家庭裁判所の許可が必要 |
原則なし |
保護者の同意権 | あり(5条) ★ただし、「単に権利を得、義務を免れる行為」、「法定代理人が目的を定め、若しくは定めずに処分を許した財産の処分」、「未成年者が営業を許可された場合、その営業に関わる法律行為」に関しては保護者の同意は不要 |
なし | 特定の法律行為に対してのみあり(13条) |
制限行為能力者が単独で行えない法律行為を単独で行った場合 | 本人の取消権(5条/120条) 保護者の取消権(5条/120条) 本人の追認可能性(122条/124条) 保護者の追認権(122条) |
本人の取消権(9条/120条) 保護者の取消権(9条/120条) 本人の追認可能性(122条/124条) 保護者の追認権(122条) |
本人の取消権(13条/120条) 保護者の取消権(13条/120条) 本人の追認可能性(122条/124条) 保護者の追認権(122条) |
相手方の催告権 | あり(20条) | あり(20条) | あり(20条) |
行為能力の回復 | 成年に達すること | 家庭裁判所による後見開始の審判の取消し(10条) | 家庭裁判所による保佐開始の審判の取消し(14条) |
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