【民法総則】制限行為能力者 – 未成年者

民法
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【民法総則】意思能力と行為能力」で、民法における4つの「制限行為能力者」の形態がある、ということをサクッと説明しました。

この記事ではその内の「未成年者」について詳しくみていきます。

1. 未成年者の要件

本記事の投稿時点で、民法は未成年者を下記の通り規定しています。

民法第4条(成年)
年齢二十歳をもって、成年とする。

至ってシンプルな条文ですね。現行民法上では20歳未満の者を「未成年」と規定しています。つまり満20歳未満は民法上の未成年であり、制限行為能力者となります。

★「現行」と書いたのは、令和4年4月1日施行の改正民法から、成年の年齢が20歳から18歳引き下げられるからです。

2. 未成年者の保護者

【民法総則】意思能力と行為能力」では、各制限行為能力者には「保護者」が設置されると解説しました。

未成年の保護者はと言うと、

  • 親権者(民法第818条)
  • 未成年後見人(民法第838条1号)

と規定されています。各条文をみてみましょう。

民法第818条(親権者)
  1. 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
  2. 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
  3. 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

つまり、実の子であろうが養子であろうが、未成年者はその親権者が保護者となる、と言うことですね。

親権者については上記でよくわかったと思います。

では親権者に代わる「未成年後見人」とは、どんな時に必要となるのでしょうか?それを解説する前に、まずは「後見人」についてちょっと説明します。

2-1. 後見人とは?

「後見」とは、民法において、「制限行為能力者の保護の為に、法律行為等のサポートを行う制度」の事を指し、「後見人」とはその制限行為能力者の保護者として、上記のサポートを行う者を指します。

民法上の「後見人」は2種類あり、1つは次節で説明する「未成年後見人」、もう1つは精神上の障害等により能力を欠く(法律用語で「事理弁識能力を欠く」と言います)者を補佐する「成年後見人」です。

2-2. 未成年後見人が必要となるとき

さて、話を未成年後見人に戻します。

未成年後見人に関し、民法第838条第1号では下記の通り規定しています。

民法第838条第1号
後見は、次に掲げる場合に開始する。
 一. 未成年者に対して親権を行う者がないとき、または親権を行う者が管理権を有しないとき。

つまり、

  • 例えば「両親が共に亡くなってしまう」、「両親の離婚後未成年の子を引き取った父若しくは母が親権者となったが、その父若しくは母が亡くなってしまった」等、未成年者に対して親権を行う者がいなくなった場合
  • 親権を行う者はいるものの、その親権を行う者に「管理権」がない場合

に、「未成年後見人」が選任されるということですね。

上記の「管理権」に関してですが、民法第824条(後述)は、親権者は子の財産を管理し、対外的に代表(代理)しなければならない」と規定しており、上記の「管理権」とは、この条文に則った「子の財産の管理」を指しています。

親権は持っているけど、上記の「(財産に関する)管理権」は持っていない、なんていう事態が起こり得るんです。この点を民法では下記の様に規定しています。

民法第835条(管理権喪失の審判)
父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。

つまり、親権者の子の財産管理があまりにもずさん・不適当で、これ以上任せておくと子の利益を著しく害する、と判断される時は、家庭裁判所は当該親権者について「管理権喪失」の審判を下し、管理権を剥奪できる、という事です。

そしてこの管理権喪失の審判により、親権を行う者が管理権を有しなくなった場合、未成年後見人が選任される、ということになるわけです。

2-3. 未成年後見人の指定と選任

未成年後見人の指定と選任に関して、民法では下記の通り規定しています。

民法第839条(未成年後見人の指定)
  1. 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺書で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りではない。
  2. 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
民法第840条(未成年後見人の選任)
  1. 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
  2. 未成年後見人がある場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、更に未成年後見人を選任することができる。
  3. 未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他の一切の事情を考慮しなければならない。

つまり、未成年後見人の選任方法は下記の二種類があるということですね。

  1. 親権者による遺言によって、未成年後見人を指定
  2. 未成年被後見人(未成年者本人)、その親族、その他の利害関係人の請求により、家庭裁判所が未成年後見人を選任

★パターン2で、未成年者本人が未成年後見人の選任を請求する場合は、当該未成年者が請求時に意思能力を有していることが必要です。

親権者の遺言によって未成年後見人が指定されない場合、若しくは既にいる未成年後見人が何らかの事情で欠けた場合は、特定の者からの請求に基づき、家庭裁判所は未成年後見人を選任することができます。

そして家庭裁判所は必要に応じて複数の未成年後見人を選任することができます。

2-4. 未成年後見人になるための要件

既出の民法第840条3項では、未成年後見人選任にあたっての考慮すべき条件・事情が列挙されています。未成年後見人になるために特別な資格は必要ありませんが、

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、補佐人、補助人
  • 破産者で復権をしていない者
  • 当該未成年者に対して訴訟をし又はした者、その配偶者、その直系血族(祖父母や父母等)
  • 行方の知れない者

※裁判所HPより

は未成年後見人にはなれません。

この第2章でみてきた未成年者の保護者は、制限行為能力者である未成年を保護・補佐するため、未成年者の法律行為に関して様々な権限が与えられています。

次の章から保護者に与えられた各種権限について詳しくみていきましょう。

3. 保護者の代理権

未成年者の保護者(親権者若しくは未成年後見人)は、未成年者に代わり、その本人の法律行為を代理で行うことができるという非常に強力な権限を付与されています。

未成年者の保護者の代理権に関しては、下記の条文で規定されています。

民法第824条(財産の管理及び代表)
親権を行う者は子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
民法第859条(財産の管理及び代表)
  1. 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
  2. 第八百二十四条ただし書(子の行為を目的とする債務と本人の同意)の規定は、前項の場合について準用する。

各々「親権者」と「未成年後見人」に関して規定している条文ですが、内容は全く同じですね。

親権者並びに未成年後見人は、子の財産を管理し(管理権)、又その財産に関する法律行為について、子を代表(=代理)する、と規定されています。この条文を根拠に、親権者又は未成年後見人には代理権が付与されるわけです。

尚、条文では代理権が「子の財産」のみに限定されているような書きっぷりですが、ここで規定される代理権は、財産に限定されないより広範な代理権であると解されます。

ところで上記条文ただし書の、「子の行為を目的とする債務」ですが、具体的にどのような場合を指すのでしょうか?

例えば、子に並外れたピアノの才能があり、全国各地から演奏の依頼が舞い込んできているとしましょう。

この時、保護者は「代理権を有しているから」と言ってこれらの演奏依頼を全て受け入れ、子の法定代理人として演奏請負契約を独断で締結することはできません。

なぜなら民法第824条と第859条では「子の行為を目的とする債務」(このケースでは、子の行為=ピアノの演奏)が生じる場合は、事前に本人の同意を得る必要がある、と規定しているからです。

こうした一部の例外を除き、護者は未成年者の法律行為に関して代理ができる、非常に強力な権限を有しています。

4. 保護者の同意権

代理権の次は、「同意権」をみていきます。

同意権とは、「ある人の行為に関して賛成の意思を表示する権利」であり、同意権者の同意を得ずに行われた法律行為は取り消すことが可能となります。

この同意権を規定した条文をみてみましょう。

民法第5条(未成年者の法律行為)
  1. 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、義務を免れる法律行為については、この限りではない。
  2. 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
  3. 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

また回りくどい書き方ですね・・・。

第1項のただし書以前、第2項の内容に関しては理解に難くないと思います。

未成年の法律行為には法定代理人(保護者)の同意が必要で、同意がないものに関しては、取消可能だよ

そのままの意味ですね!

問題は第1項のただし書と第3項。何でこう、あえて分かり辛い書き方するんでしょうね・・・・。

まず第1項のただし書。これは「未成年者が不利益を被る事のない(未成年者が一方的に得をする)行為」を指します。

例えばお年玉の様に「未成年が金銭の贈与を受ける行為」は、未成年者側には債務も何も生じず、未成年者が一方的に利益を得る行為ですので、こうした行為には法定代理人の同意は不要、という事になります。

そして第3項。法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、未成年者は単独で処分する事ができます。

例えば未成年者が友達と旅行に行く際、親から渡された「旅費」。この旅費に関しては、旅費交通費という目的の範囲内において、未成年者が法定代理人の同意なく自由に処分することができます。

また第3項では、「目的を定めずに処分を許した財産も、未成年が勝手に処分できるよ」と規定しています。

例えば「お小遣い」が典型的な例ですね。お小遣いは特に使途の指定をされる訳ではありません。つまり、「目的を定めずに処分を許した財産」という事になります。

つまり民法第5条は、「未成年者の法律行為は、一定の例外を除いて法定代理人の同意がなければ取消すことが可能である」と規定しています。

次に民法第6条では、第5条第1項のただし書と第3項に加えて、未成年者が保護者の同意を必要とせず法律行為ができる例外を規定しています。

民法第6条(未成年者の営業の許可)
  1. 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する
  2. 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

つまり、

未成年者の保護者がその未成年者に営業を許した場合、その営業に関しては制限行為能力者で無くなる(即ち法律行為に際して保護者の同意は不要、かつ保護者の同意がない事を理由に取消不可)

という事です。

長くなりましたが、まとめると

  • 未成年者の法律行為には保護者の同意が必要。保護者の同意を得ずに、未成年者が単独で行った法律行為は取消可能。
  • 単に権利を得、義務を免れる法律行為に関しては、保護者の同意は不要。
  • 法定代理人が目的を定めて、若しくは定めないで処分を許した財産の処分に際しては、保護者の同意は不要。
  • 保護者が未成年者に営業を許可した場合、その営業に関する法律行為は保護者の同意は不要。

という事になります。

5. 未成年が単独で行えない法律行為を単独でした場合

未成年(未成年被後見人)は、保護者の同意がなければ法律行為を行うことができない、ということを前章で解説しました。

では仮に、未成年が保護者の同意無く、単独で法律行為をしてしまった場合、どの様な対応が取られるのでしょうか?

この場合、大きく分けて「取り消し」と「追認」の2パターンがあります。

この「取消」と「追認」は更に下記の4パターンに細分化されます。

5-1. 本人による取り消し

未成年者が法律行為を単独で、保護者の同意無く行なった場合、本人はその法律行為を取り消すことができます。

この本人による取消権は、下記の条文にて規定されます。

民法第5条(未成年者の法律行為)
  1. 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、義務を免れる法律行為については、この限りではない。
  2. 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
  3. 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
民法第120条(取消権者)
  1. 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
  2. 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

民法第5条では、未成年者が保護者の同意無く単独でした法律行為は取り消せると規定しており、民法第120条では「その法律行為を実際に取り消すことができる人」を列挙しています。

民法第120条では、「制限行為能力者(即ちここでは未成年者本人)が行為を取り消すことができる」と規定していますから、この条文を基づき、成年者本人が法律行為を取り消すことができる、という事になります。

5-2. 保護者による取り消し

未成年者が保護者の同意を得ずに行った法律行為は、その本人のみならず、保護者(親権者若しくは未成年後見人)も取り消すことができます。

保護者の取消権はどの条文に基づいているかというと、

民法第120条(取消権者)
  1. 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
  2. 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

ココですね!

民法第120条では、未成年者本人以外にも「代理人又は同意をすることができる者」に取消権を付与しています。即ち、保護者(=未成年の法定代理人+同意ができる者)ですね。

ここまでが、未成年者が保護者の同意無しで行った法律行為の「取消し」になります。

5-3. 保護者による追認

3パターン目は「追認」です。

「追認」とは、「取り消すことができる(不完全な)法律行為を、後になって確定的に有効とする」ことです。追認をすることで、過去の法律行為が確定的に有効なものになり、以降取り消すことはできなくなります(取消権の放棄、とも言えますね)。

話を元に戻して、未成年者の法律行為に関し、保護者の追認が認められています。根拠条文をみていきましょう。

民法第122条(取り消すことができる行為の追認)
取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。

民法第120条は前項でみましたね!第120条に規定される者は、

  1. 制限行為能力者
  2. 制限行為能力者の代理人
  3. 制限行為能力者の承継人
  4. 同意をすることができる者

でした。即ち、未成年者の法定代理人である保護者が、民法第122条に規定される「追認権」を行使できるという事になります。

5-4. 本人による追認

取り消し可能な法律行為は、未成年者本人による追認も可能です

本人による追認に関しては、下記条文に規定があります。

民法第122条(取り消す事ができる行為の追認)
取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。
民法第124条(追認の要件)
  1. 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
  2. 次に掲げる場合には、前項の追認は、取り消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。

     一. 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認するとき
     二. 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て
        追認をするとき。

ややこい、ややこいですね!色んな条文を行ったりきたりしなきゃいけませんが、以下にて本人の追認権に関してみていきましょう。

繰り返しになりますが、まず民法第122条です。122条(厳密には参照先の120条)では「制限行為能力者本人」が追認権を有すると規定されてましたよね?

それはそうなんですが、その追認権を行使する際の「要件」を定めた条文が民法第124条です。つまり、122条で追認権を持っていても、124条の要件を満たさなければ、追認権は行使できないということです。

では124条は何を追認の要件と定めているのか?第1項と第2項を超訳すると以下の通りになります。

「追認権は、その行為を取消すことを可能としていた理由が消滅した後で、かつ、その人がその行為の取消権を持ってることをしっかり認識した後じゃないと、行使できないよ!」(第1項)

「第1項で追認するための条件をグダグダ言ってるけど、下記の場合は第1項の条件は無視してOK!」(第2項)

超訳してもなお、分かり辛いという・・・。以下で具体的にみてみましょう。

5-4-1. 民法第124条第1項の意味

未成年の追認に際して、第1項の「取消しの原因となっていた状況が消滅」とは、「未成年が未成年で無くなること」を指します。

未成年の場合、法律行為を取り消すことができるのは、その法律行為を行った人が「未成年」だったからでした。つまり、「法律行為を行った人が未成年である」ことが「法律行為の取消しの原因」となっていた訳です。この「取り消しの原因となっていた状況」が消滅、即ち「未成年が未成年でなくなる(=成人する)」事が、未成年者本人が追認をするための第一条件となります。つまり、未成年者は成人した後でないと、未成年の時に自ら行った法律行為を単独で追認できない、という事ですね。

そして第1項に規定されている第二条件が、「取消権を有することを知った後」です。どういうことか。つまり、「追認をしないで、その法律行為を取消すこともできる、ということをしっかりと認識する」ことがマスト、ということですね。追認か取消しか、二つのオプションをしっかりと考え、その上で追認する事が第二条件という事です。

5-4-2. 民法第124条第2項の意味

第1項では追認における要件2つを規定していました。第2項では一定の状況下では第1項で定める追認の要件の内、消しの原因となっていた状況の消滅」を無視して良い、と規定しています。

第2項で定める一定の状況下とは、

  1. 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認するとき(①)
  2. 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき(②)

の2つです。

5-3では、未成年者の法律行為に関して、保護者による追認権が認められていると解説しました。上記①では、法定代理人(=保護者)が追認をする時は、第1項に規定される「取り消しの原因となっていた状況の消滅(つまり未成年が成年になること)」は必要ない、と規定しています(当たり前のことですね)。

上記②では、「制限行為効力者が法定代理人の同意を得る」、即ち未成年者が保護者の同意を得る」時は、(未成年者が成年になる事を必要とせずに)未成年者本人が追認しても良い、という事を規定しています。

6. 相手方の催告権

これまで未成年者の保護者の同意権と、未成年者が単独で行った法律行為の取消権・追認権をみてきました。

ここで視点を変え、未成年者が行う法律行為の「相手方」の視点から見てみましょう。

未成年者と何らかの法律関係(契約等)に入る相手方は、未成年者とその保護者に「取消権」というチート的な権利が付与されている以上いつ何時「制限行為能力者であること」を理由として契約を解除(取消し)されるか分からないという、非常に不安定な立場に置かれる事になります。

そこで民法では、こうした相手方を保護するために、相手方に「催告権」を与えています。

「催告」とは、

相手に対して一定の行為を要求すること。催告をして相手方が応じない場合には、一定の法律効果を生じさせる。

事を指します。では以下にて、「制限行為能力者の相手方の催告権」を規定した条文をみてみましょう。

民法第20条(制限行為能力者の相手方の催告権)
  1. 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
  2. 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。
  3. 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
  4. 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。

長い。長いっす。でもこの条文内で、未成年者に対する催告に関わる箇所は第1項と第2項だけです。

民法第20条が規定する、未成年者に対する催告は以下の2パターンです。

【未成年者に対する催告2パターン】

催告の相手方 催告の時期 確答の期限 期限内に確答がない
場合の効果
本人 行為能力者(=成年)
となった後
最低1ヶ月以上 当該法律行為を
追認したとみなす
未成年者の法定代理人 制限行為能力者(=未成年)である間 最低1ヶ月以上 当該法律行為を
追認したとみなす

7. 行為能力の回復

最後に未成年者が行為能力を回復する要件をみていきましょう。

「行為能力の回復」、即ち「制限行為能力者」から「行為能力者」へ民法上のステータスが変わるのは、未成年者が「成年に達したとき」です。現行民法下では20歳をもって成年とみなすと規定されていますが、令和4年の4月1日の民法改正により、成年に達する年齢が20歳から18歳に引き下げられます。

8. まとめ

ここまで非常に盛り沢山でしたが、民法が定める制限行為能力者の一形態である「未成年者」に関して解説してきました。

未成年者に関わる民法上の一連の規定をまとめると、以下の様になります。

  未成年者
制限行為能力者となる要件 成年に達していないこと
保護者 親権者(818条)
親権を行う者がいない時は未成年後見人(838条)
保護者の代理権 あり(824条/859条)
★ただし、子の行為を目的とする債務を生ずべき時は、
本人の同意が必要
保護者の同意権 あり(5条)
★ただし、「単に権利を得、義務を免れる行為」、「法定代理人が目的を定め、若しくは定めずに処分を許した財産の処分」、「未成年者が営業を許可された場合、その営業に関わる法律行為」に関しては保護者の同意は不要
制限行為能力者が単独で行えない法律行為を単独で行った場合 本人の取消権(5条/120条)
保護者の取消権(5条/120条)
本人の追認可能性(122条/124条)
保護者の追認権(122条)
相手方の催告権 あり(20条)
行為能力の回復 成年に達すること

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