【民法総則】不在者と不在者財産管理人

民法
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【民法総則】住所、居所、仮住所の意義とその違い」で、民法上規定される人が居住する場所を見てきました。

この投稿では、「ある人が住所或いは居所から去り、戻ってこなくなっちゃった場合にどうするか」を見ていきます。

1. 不在者とは

不在者とは、民法上「従来の住所又は居所を去った者」と定義されています。至極当たり前のことを書いてますね(仮住所が含まれないのは、仮住所はあくまで特定の法律行為においてのみ有効な住所であり、実際の住所や居所とは異なるためです)。

「不在者」という用語を聞いてピンとくるかもしれません。何かと似てますよね??
そう、「失踪者」(参考:【民法総則】失踪宣告による死亡擬制)と似ているんです。ややこしいですが、下記の様に分けて考えると良いでしょう。

  • 不在者:住所又は居所を去り、戻る見込みの無い人(つまりまだ生きてる前提)
  • 失踪者:同じく行方不明であるが、失踪宣告を受け法律上死亡したもの(=死亡擬制)とされた人

2. 不在者財産管理人とは

不在者が出ると、法律上様々な不都合が生じることが予想されます。

その中でも特に重要なのが、不在者の住所や居所に残された、「不在者の財産」。

不在者は住所又は居所を去り、戻ってくる見込みが無いのですから、住所や居所に残された不在者の財産は、ほったらかしになります。こうなると当然、色々と困ることが出てきますよね。

そこで民法では「不在者財産管理人」なる制度を設け、こうした不在者の財産保護を図っています。「不在者財産管理人」とは、不在者の財産を管理する役割を担う者を指します。

不在者に法定代理人(親権者、未成年後見人、成年後見人等)がある場合は、この法定代理人が不在者の財産を管理します。

民法上の不在者財産管理人の各種規定につき、次の章で詳しく見ていきます。

3. 不在者財産管理人の選定〜職務の終了まで

3-1. 不在者財産管理人の選定(民法第25条)

まずは、民法第25条の条文を見ていきます。

民法第25条(不在者の財産の管理)
  1. 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
  2. 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。

各項について内容を詳しく見ていみましょう。

3-1-1. 民法第25条第1項の意味

まず本項の前段部分です。超訳すると、

不在者が、その財産の管理を誰にも任せないまま戻ってこなくなった場合は、利害関係人か検察官の請求で、家庭裁判所はその財産の管理に必要な各種処分の命令を下すことができるよ!

ここでの「財産の管理について必要な処分」には、「不在者財産管理人の選定」の他、財産目録の作成や、その他当該財産の保存に必要な行為が含まれます。本項のこの前段によって、「不在者財産管理人」の選定がされるわけですね。

次に後段部分です。後段では、「不在者が予め財産の管理人を置いたが、その管理人の権限が消滅した場合(例えば財産の管理に関わる委任契約が満了した、等)にどう対応するか」を規定しています。

超訳すると、

「(不在者がその財産につき管理人を予め選定していたとして)不在者の選定した管理人の権限が消滅した時も、前段同様、利害関係人か検察官の請求で家庭裁判所はその財産の管理に必要な各種処分の命令を下すことができるよ!

という事になります。

第2項は、特段分かりにくくもないので割愛します!

3-2. 不在者財産管理人の改任(民法第26条)

不在者がその財産につき、予め管理人を選定していたとしても、不在者の生死が不明になった時は、当該管理人の改任を行う事ができます(前述の通り、これまで「不在者=生存している前提」でしたが、ここではその不在者が生存しているか否かすら分からなくなった場合を規定しています)。

不在者財産管理人の解任につき、民法第26条では下記の様に規定しています。

民法第26条(管理人の改任)
不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、管理人を改任することができる。

不在者が既に管理人を置いているにも関わらず、改任が可能となるのはなぜでしょう?

既に管理人が置かれていたとしても、その管理人を選定した不在者が生死不明(もしかしたら死んでいるかも)になってしまえば、不在者→管理人の指揮監督ができず、結果として財産の管理が適切に行われなくなる可能性があります。

こうした不都合を回避するため、本条文では利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所が「既に選定されている管理人(不在者の指揮監督が適切に為されない恐れのある管理人)よりも、より財産管理に相応しい管理人」を選定することを可能としています。

3-3. 不在者財産管理人の職務(民法第27条)

民法第27条では、不在者財産管理人(不在者が予め選任した管理人と家庭裁判所が選任した管理人両方)の職務内容につき規定しています。

民法第27条(管理人の職務)
  1. 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
  2. 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
  3. 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。

この条文についてはそこまで難解な箇所はありませんね・・・。

家庭裁判所は、不在者財産管理人(不在者が予め選任した管理人、若しくは民法第25、26条に基づき家庭裁判所が選任した管理人)に対して、管理対象となる財産の目録作成をはじめとした、「不在者の財産保存に必要と考えられる諸々の処分」を命ずることができます。

目録作成をはじめとし、家庭裁判所から命じられた「財産保存に必要と考えられる処分」が、不在者財産管理人の職務内容になるというわけです。

3-4. 不在者財産管理人の権限(民法第28条)

これまで不在者財産管理人の選任からその職務内容までをみてきました。

不在者財産管理人は、不在者の法定代理人という立場ではありますが、不在者の財産に関して、何でもかんでも好きにして良いという訳ではありません。

まずは不在者財産管理人の権限について規定した条文を見てみましょう。

民法第28条(管理人の権限)
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

民法第103条のリファレンスが出てきました!民法第103条は何を規定しているかと言うと、

民法第103条(権限の定めのない代理人の権限)

権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。

一. 保存行為
二. 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

つまり、不在者財産管理人は

  • 不在者の財産の保存行為(壊れた箇所の修復など、財産の維持)
  • 不在者の財産の性質を変えない範囲内での、その財産の利用又は改良

を超える行為を必要とする場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。

★不在者と管理者との委任契約において、民法第103条の規定される権限に制限がついている場合は、委任契約の内容が優先される場合もあります。

家庭裁判所の許可が必要な行為としては、例えば「不在者に代わり遺産分割協議への参加」や「不在者に代わっての財産の売却」等があり、これらを行うためには家庭裁判所の許可(権限外行為許可)が必要となります。

仮に権限外行為許可を得ないまま上記の行為をした場合、内容によっては民法第709条(不法行為による損害賠償)に基づき、不在者から損害賠償請求が為される場合もあり、注意が必要です。

★管理人の上訴(控訴・上告)の権限=不在者財産管理人は、不在者を被告とする訴訟において、民法第28条の許可を得ることなく、上訴する権限を有する、とされています。(最判昭47・9・1)

3-5. 不在者財産管理人の担保提供と報酬(民法第29条)

不在者財産管理人のおカネの話です。

不在者財産管理人は、不在者の法定代理人という責任ある立場ですし、それなりの仕事量も発生する訳ですから、タダ働きと言うわけにはいきません。

また、不在者財産管理人の適切な財産管理と、不在者が住所又は居所へ戻った時の不在者への財産の返還を確実なものにしなければなりません。

そこで民法第29条では、下記の通り規定しています。

民法第29条(管理人の担保提供及び報酬)
  1. 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
  2. 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。

まず第1項では、不在者財産管理人の財産の管理や返還の義務の担保に関して規定しています。

不在者財産管理人が、不注意や怠慢な管理で不在者の財産を損なわない様にしっかりと管理し、また不在者が戻った際には確実にその財産を返還できる様に、相当の担保を立てさせることができます。

第2項は不在者財産管理人の報酬につき規定しています。ここは条文の通りですね(相場は大体月額5万円〜10万円みたいです)。

3-6. 不在者財産管理人の職務の終了

ここまで長かったですが、最後は「不在者財産管理人の職務はいつ終了するのか」です。

下記の何れかの場合に、その職務が終了します。

  1. 不在者が現れた場合
  2. 不在者の死亡が確認された場合
  3. 不在者につき失踪宣告がされた場合(参考:【民法総則】失踪宣告による死亡擬制
  4. 不在者の財産がなくなった場合 等

1の場合、不在者財産管理人はその管理していた財産を不在者に返還して、その職務が終了します。

2、3の場合は、不在者の相続人に対して財産が引き継がれます。

4. まとめ

ここまでみてきた内容をおさらいします。

  • 不在者とは、「住所や居所を去った者で、容易にその場所へ戻る見込みがない者」を指す。
  • 不在者の財産に関しては、「不在者財産管理人」を不在者本人若しくは利害関係人又は検察官の請求で家庭裁判所が選任する。
  • 不在者財産管理人の職務は、当該財産の目録作成をはじめとし、財産の保存に必要と家庭裁判所が認める処分がある。
  • 不在者財産管理人の権限は、民法第103条に定められる範囲に留まる。これを超えた行為をする必要がある場合は、家庭裁判所の「権限外行為許可」が必要となる。
  • 家庭裁判所は、不在者財産管理人に、財産の適切な保存と確実な返還を求めるため、担保を立てさせることができる。
  • 不在者財産管理人は、家庭裁判所が相当と判断する報酬を、不在者の財産から得ることができる。
  • 不在者財産管理人の職務は、「不在者が現れた場合」、「不在者が死亡した場合」、「不在者につき失踪宣告が出された場合」、「不在者の財産が無くなった場合」等により終了する。

以上、「不在者と不在者財産管理人」でした!

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