民法第1条第3項に規定される、「権利濫用禁止の原則」に関連する重要判例です。
(関連ページ:【民法の仕組み】民法とその基本原理)
早速下記にて見ていきましょう。
1. 宇奈月温泉事件の概要
宇奈月温泉は富山県にある温泉地(今はダムの底に沈んでしまっているようです・・)。
ここで民法の判例史上極めて重大な民事訴訟事件が起こります。まずは登場人物を整理しましょう。(※価格は適当です)
- Aさん:甲土地(後述)の所有権者。
- Bさん:宇奈月温泉で温泉宿の経営を営む経営者。
- 甲土地:Aさんが所有権者で取得価格は1千万円程。急傾斜地でぶっちゃけ土地としての価値はゼロ。
ある日、甲土地の所有者であるAさんがBさんにけしかけます。
[Aさん]
そういやBさん、最近新しい引湯管(源泉から温泉を宿まで引くための木製の管)を引いたんだって?
[Bさん]
そうなんです。めっちゃお金かかりましたけどね。
[Aさん]
実はね、よくよく調べると、Bさんの引いた湯引管の一部がね、俺が所有してる甲土地の一部をカスッとるんですわ。これ明らかに俺の甲土地の所有権侵害でしょ??今すぐ引湯管撤去するか、さもなければ甲土地の全部を5億円で買い取ってよ。
[Bさん]
(何言うてんのこいつ・・・)いや、ちょっとそれは無理っす。。。
[Aさん]
はい、じゃあ引湯管の撤去を求めて民事訴訟起こしまーす。
と、こんな感じの事件です(Aさんが明らかに吹っ掛けてますけどね)。
2. 宇奈月温泉事件の判決
この民事訴訟、最終的に以下の様に決着がつきました。
[Aさん]
裁判官!聞いてください!
[裁判所]
なに?
[Aさん]
かくかくしかじかで、Bさんに引湯管の撤去を求めたいんだけど、ええやろ?甲土地の所有者俺やし。
[裁判所]
いや、そんなんお前「権利の濫用」やろ。5億とか明らかにふっかけやし、そもそもお前の甲土地、傾斜地で価値ゼロやんけ。そんな土地のために引湯管を撤去するのと、引湯管を撤去した事によるその地域への損害を考えたら、そんな請求は認められんで。権利の濫用や、権利の濫用。
3. この判例のポイント
この事件は「権利の濫用を理由として、初めて裁判所が判決を下した」例であり、これ以後民法に「権利の濫用の禁止」が明記される事になりました。即ち、現行民法の原則となる部分を形作った、大変重要な判例です。
上記判決からも分かる通り、
民法では私人の権利は最大限尊重され、認められるものの、権利行使に際しては、「その権利行使が認められない事によって権利行使者が被る不利益」と、「その権利行使を阻止する事で得られる利益」を衡量して「権利の濫用」か否かを判断すべき。
との判断基準を導き出しました。
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