【民法総則】意思能力と行為能力

民法
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1. 民法上の意思能力とは

【民法の仕組み】民法とその基本原理」にて、民法の三大原則につき解説しました。下記にて三大原則を振り返りましょう。

  • 権利能力平等の原則
  • 私的自治の原則
  • 所有権絶対の原則

上記三大原則の内、「権利能力平等の原則」と「私的自治の原則」が、民法における「意思能力」の考え方に大きく関わってきます。

私的自治の原則を大原則として掲げる民法が想定する「意思能力を有する人」とは、

自らの意思により、理性的かつ合理的に物事を判断し、意思決定ができる人

を指します。

しかしながら、現実世界では上記の様な「意思能力」を、必ずしも全員が有しているとは限りません。

例えば乳児や重度の認知症患者等、自らの意思で物事を理性的かつ合理的に考えられない人、即ち「意思能力を欠いた者」が存在するのも事実です。

そこで民法では、こうした意思能力を欠いた者が法律行為を行なった場合を下記の様に規定しています。

民法第3条の2
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする。

つまり、意思能力を有さない者がした法律行為を「無効」とする事で、意思能力を有さない者の保護を図っています。

2. 意思能力の法理の限界

前章で、「意思能力を有さない者(意思無能力者)」の保護の為、その者の行なった法律行為は無効とされると説明しました。

しかし日々の様々な取引の中でこれを貫くとすると、色々な不都合が発生する可能性があります。例えば、

1. 意思無能力の立証の困難

意思無能力は個別具体的に判断されるべきものです。意思無能力を理由に法律行為を無効にしようとする場合、その「意思無能力」を相手方に立証する必要があります。

しかした現実的にそうした立証には困難を伴うことが多く、仮に意思無能力者の立証が有効に受け入れられなかった場合、その意思無能力者は法律行為の無効を主張することができません。

即ち、「意思無能力」のみを問題とするだけでは、意思無能力者を十分に保護できない可能性があり、好ましくありません。

2. 取引相手方の不利益

意思能力の有無を外観からでは判断できない可能性があります。

にも関わらず、外観だけでは意思無能力者か否か判断し難いその人との取引後に、意思無能力を理由として取引を無効とされたのでは、その取引相手方が予期せぬ不利益を被る事になります。

3. 意思能力を有する者(意思能力者)の法律行為

複雑化する世の中には、意思能力者でも合理的な判断を下すことが困難な取引や財産管理が多く存在します。

こうした現実がある中、意思能力者が単独で結んだ契約や財産の管理・処分等の法律行為についても、(意思無能力を理由とせず)否定するのが望ましい場合があります。

4. 意思無能力者にとって有意義な法律行為

個々の契約や財産の管理・処分等の法律行為の内容が、意思無能力者にとって好ましいものである場合、これを何でも無効とするのではなく、その効果を意思無能力者に帰属させる事が好ましい場合もあります。

上記の様な不都合が多く存在するという現実を踏まえ(意思能力の法理の限界)、民法では次章の様な制度を設け、単に「意思能力の有無」のみを問題としただけでは十分に対処仕切れない場合を合理的に処理しています。

3. 行為能力制度

前章でみた「意思能力の法理の限界」に対応すべく、民法では「行為能力制度」なるものを規定しています。

「行為能力」とは、

契約等の法律行為を単独で有効に行う事ができる能力

を指し、様々な理由により、こうした能力が欠如している者の事を「制限行為能力者」といいます。

前章では、意思無能力者の法律行為を何でもかんでも無効としてしまう事による弊害をみてきました。

行為能力制度はこうした弊害を排除するために用意されたものであり、

  1. 制限行為能力者を判断能力の程度と状況に応じて段階的に定型化し、この者が単独で行なった法律行為を、「意思能力の有無に関係なく」取り消す事を可能とする。

  2. 制限行為能力者の財産管理その他事務処理を補完する者として「保護者」を置く。保護者は、当該制限行為能力者の判断能力の程度・状況や取引の態様に応じて、財産管理その他事務処理権限を有する。

  3. 制限行為能力者が、保護者の関与無しに単独で有効に行為できる範囲を、判断能力の程度・状況に応じて段階的に保証。また、保護者による制限行為能力者の法律行為への介入に関しても、本人の同意の取り付けを随所に要求し、制限行為能力者の自己決定権を可能な限り尊重する。

という内容となっています。

4. 制限行為能力者とは

前章では、

契約等の法律行為を単独で有効に行う事ができる能力が欠如している者」

を「制限行為能力者」という、と解説しました。では、民法上では具体的にどの様な制限行為能力者の形態が規定されているのでしょうか?

民法では、

  • 未成年者
  • 成年被後見人
  • 被保佐人
  • 被補助人(但し、民法第17条第1項に定める同意見付与の審判を受けた者に限る)

の4形態を「制限行為能力者」として規定しています。

各制限行為能力者の概要に関しては、以降の記事で一つずつじっくりとみていく事にします。

5. まとめ

この記事では民法上の「意思能力と行為能力」に関して解説しました。おさらいすると、

  • 民法上の意思能力とは自らの意思により、理性的かつ合理的に物事を判断し、意思決定をする能力」を指す。
  • 民法上の行為能力とは契約等の法律行為を単独で有効に行う事ができる能力」を指す。
  • 民法では「行為能力制度」を設定することで、「意思能力の法理」の限界に対処している。

ということになります!

 

 

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