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1. 民法の基本原理
日本の民法は、1898年(明治31年)に施行されました。
この民法典は、近代ヨーロッパ大陸民法典に流れを汲む物で、大きく下記の3大原則の下成り立っています。
- 権利能力平等の原則
- 私的自治の原則
- 所有権絶対の原則
順に一つずつ見ていきましょう。
1-1. 権利能力平等の原則
読んで字のごとく、「全ての人間は、国籍や年齢、性別に関係なく皆平等に、等しく権利義務関係の主体となる資格(権利能力)を有する」と言う原則です。
1-2. 私的自治の原則
民法を学ぶ上で非常に重要な大原則です。これは「他者や国家からの干渉を受けることなく、個々人は自らの意思に基づき自らの生活関係を形成することができ、国家はこうして形成された生活関係を尊重・保護しなければならない」との原則です。この私的自治の原則から、「契約自由の原則」や「団体設立自由の原則」等の原則が導き出されます。
★「私的自治の原則」は裏を返せば、「個々人は自らの生活関係を、自らの独立した意思に基づいて形成することを保証されているのだから、個々人は自らの意思で決定した結果に拘束され、それに対する責任を負担すべし」という「自己責任の原則」という考え方にも結びつきます。
1-3. 所有権絶対の原則(財産権絶対の原則)
所有権は何ら人為的拘束を受けることはない、という原則です。この原則は、①所有者は、自由にその所有物を使用・収益・処分することができ(自由な所有権)、②所有者は、その所有物を侵害する者に対して、その侵害を排除できる(所有権の不可侵)、の2本の柱から成り立っています。
つまり、「自分の物は自分が勝手に使い道を決められる」、「自分の物にちょっかいを出す輩がいたら、その侵害行為をやめさせられる」ということですね。
2. 私人の権利に関しての民法の考え方
個々人(私人)の権利や意思が最大限保証されている現行民法ですが、何でもかんでも許していたら、国家・社会秩序が乱れ、弱者の権利や利益が脅かされる可能性が出てきます。
そこで民法では、上述の3大原則を基礎に私人の権利・自由を最大限保証しながらも、民法第1条において、一定の条件下で私人の権利・自由が制約される旨を明記しています。
民法第1条(基本原則) |
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この民法第1条の内容も下記で詳しく見ていきましょう。
2-1. 公共の福祉による制限(民法第1条第1項)
「公共の福祉」、聞いたことありますよね。私権は、公共の福祉即ち「社会の共通利益や国家の利益」に反する場合は、制約を受ける旨を規定しています。
2-2. 信義誠実の原則(民法第1条第2項)
いわゆる、「信義則」と呼ばれる原則です。信義則とは、
「人は、社会生活を送る中で、他者の信頼を裏切ったり、不誠実な振る舞いをしたりしてはダメよ」
という原則です。ある意味、社会の中で生きる人として当然の事ですね。具体的にこの信義則が具現化される場面としては、
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- 権利行使・義務履行の際の行動準則
→小難しいこと書いてますが、要は契約等の法律行為をする時は、相手方に対して嘘をついたり、信頼を裏切るようなことをしてはダメ、という事です。 - 矛盾行為禁止の原則
→この原則は「禁反言(エストッペル)」とも呼ばれます。自分の言動を後になって覆したり、その言動と矛盾することをするのはダメ、という事です。 - クリーン・ハンズの原則
→いきなり横文字出てきましたが、これは、自ら法を尊重する者だけが、他者に対して「法を尊重せよ」ということができる、という事です。まぁ、これも当たり前ですね。ルール守らないヤツに「ルール守れ」と言われても、説得力ないですもんね。
- 権利行使・義務履行の際の行動準則
2-3. 権利濫用の禁止(民法第1条第3項)
この原則は民法を学ぶ上でかなり重要な原則です。
権利濫用の禁止とは、「権利そのものは否定されないものの、その行使が濫用であると評価される場合、これを許さない」という原則です。
ここで大切なのは、「その権利自体は否定されない」という事。
例えば、
Aさんが所有する土地で、Aさんが大量のゴミを放置し、そのゴミが悪臭を周囲に撒き散らして近隣住民に迷惑をかけている、
という状況。
この状況下では、Aさんの「土地の所有権」自体は否定されないものの、それにかこつけて「私の土地だから何してもいいでしょ!」という事には当然なりません。
個々の状況が「権利の濫用」と言えるかどうかについては、その状況における当事者間の事情や両者の意図等、主観面を当然考慮に入れて判断されますが、それ以外にも判例によって
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- 「権利行使が濫用と判断される事により、権利者が被る不利益」と「その権利行使が阻止される事により、守られる利益」とを衡量する(大判昭10.10.5 民集14-1965 [宇奈月温泉事件])
- その権利が行使される事で棄損する、公共の利益も考慮する(最判昭40.3.9 民集19-2-233 [板付基地事件])
とされています。
権利行使が「権利の濫用」と判断される場合は、当該権利行使が阻止される他、その権利行使が不法行為(民法第709条)を構成する場合は、権利行使者に損害賠償責任を発生させます。(大判大8.3.3 民集25-356 [信玄公旗掛松事件])
3. まとめ
この回では、民法の基本原理と、それに付随する制約を見てきました。おさらいすると、
- 権利能力平等の原則
- 私的自治の原則
- 所有権絶対の原則
上記3点の大原則を基に現行民法は成り立っており、中でも重要な「私的自治の原則」(私人の権利)に関しては、民法第1条に規定される要件で制約され得る、という事になります。
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